2010年3月28日日曜日

特集―これからの高齢者雇用を考える

研究報告
Business Labor Trend 2009.12
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本日は「継続雇用等をめぐる高齢者
雇用の現状と課題」をテーマに、調査
結果の概要とそれに基づく分析結果を
簡単にご紹介させていただく。労働政
策研究・研修機構では二○○八年の八
月から九月にかけて、「高齢者の雇用・
採用に関する調査」というアンケート
調査を実施した。全国の常用雇用五○
人以上の民営企業一万五○○○社に配
布して、そのうち三八六七社から回答
があった。結果的に中小企業、非製造
業からの回答が多かった(1)。
まず、六○歳到達後の正社員の雇用
の確保について聞いた結果を見ていた
だきたい。定年年齢(もっとも多い年
齢)をみると六○歳としているところ
が最も多く、八六・一%を占めている
(図1)。
継続雇用制度についてみると大部分
が六五歳を上限年齢としているが、一
方で上限年齢を定めていない企業も約
二割あった。
対象者の選択で七割の企業が
何らかの基準を設置
継続雇用の実態をもう少し詳しく見
てみたい。継続雇用制度の対象者につ
いて聞いたところ、「希望者全員」とし
ている企業が約三割、「希望者のうち、
継続雇用制度対象者の基準に適合する
もの」は約七割という結果となった(図
2)。では、具体的にどのような基準
で対象者を選んでいるかというと(複
数回答)、「働く意思・意欲があること」
(九○・二%)、「健康上支障がないこ
と」(九一・一%)といった条件をつけ
ている企業が非常に多い。それ以外に
は出勤率や勤務態度、会社が提示する
職務内容に合意できること、一定の業
績評価があることといったものを基準
にしている企業が多く見られる(図3)。
次に継続雇用時の就業形態を見ると
「嘱託・契約社員」がもっとも多く、
次いで「正
社員」、
「パート・
アルバイ
ト」の順に
なっている
( 図4)。
継続雇用制
度が普及し
ていくなか
で、実際ど
のくらいの
人が制度の
活用を希望
しているか
を聞いたと
ころ、全員
希望してい
る企業は四
分の一程度。
九割以上が
希望してい
る企業は二
割弱ある。
一方でまだ
継続雇用等をめぐる
   高齢者雇用の現状と課題
JILPT総括研究員 藤井 宏一
図1 定年年齢(最も多い年齢)(定年のある企業:調査企業の94.8%(n=3665))
図2 継続雇用制度の対象者(継続雇用制度のある企業(n=3506))
図3 継続雇用制度の対象者の基準(複数回答)       
   (対象者について基準に適合する者とする企業)(n=2460)
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定年到達者がいない企業も一六・三%
あった。
継続雇用の希望を出した正社員のう
ち、実際に雇用される人の割合を聞い
たところ、「全員」と答えた企業が四五・
八%、「九○%〜一○○%未満」が一六・
七%となった。この設問でも「定年到
達者がいない」と答えた企業が一六%
あった。
六〇歳到達前社員を対象とし
た制度実施はわずか
継続雇用の関係で、六○歳到達前に
どのような制度を用意しているか聞い
た。六○歳到達前の正社員を対象に六
○歳以降の働き方や生活設計に関する
セミナーを行っている企業は一四・
四%だった。六○歳以降の雇用を円滑
に進めるための研修制度を実施してい
るのはわずか四・八%でほとんどの企
業で行われていないのが実態だ。六○
歳到達前の正社員の転籍制度を導入し
ている企業も一・六%と非常に少ない。
五○歳以上の正社員を対象とした取
り組みの実施の有無について聞いた。
常設の早期退職優遇制度を実施してい
るのは四・七%だが、転職支援や独立
開業支援の取り組みを行っている企業
は一%にも満たない状況だった。セミ
ナーや説明会を開催している場合、そ
の内容を聞いたところ(複数回答)、「雇
用形態」(七九・九%)、「雇用契約期間」
(七六・七%)、「賃金水準に関するも
の」(八○・三%)を中心に行っている。
また、雇用を円滑に進めるための研修
制度を実施している企業にその目的を
聞いたところ(複数回答)、「継続して
雇用された際の基本的な心構えに関す
るもの」が八割ぐらいで、仕事の変更
やスキルに関するものはあまりなかっ
た。
六○歳を迎えた正社員のうち、六○
歳以降も引き続き雇用された人の割合
を聞いたのが図5だ。「全員」と答え
た企業は三四・○%だった。九割以上
を雇用したと答えたのが一三・二%。
ここでもまだ定年到達者がいないとい
う企業が二五・七%あった。六○歳を
迎えた社員を引き続き雇用する割合を
三年前と比較したところ、「増加した」
と答えた企業は三分の一程度で六割は
「変わらない」と答えている。
六○歳を迎えた正社員を引き続き雇
用する割合を三年前より増やした会社
にその理由を尋ねると答えは大きく二
つに分かれる。一つは
継続雇用を希望する人
が増えたため、もう一
つが高年齢者雇用安定
法の改正に対応したた
めだ。
六○歳以降の雇用の
状況をみたが、そもそ
も六○歳までの雇用が
どの程度保障されてい
るかをみるため、一○
年前に五○歳を迎えた
正社員のうち、六○歳
まで勤務している人の
割合を聞いた結果が図
6だ。「一○○%」と
回答した企業は二八・
二%、「九○%〜一○
○%未満」は二三・三%
となっている。合わせ
ると半数の企業で九割
以上の雇用が確保され
たことになる。
図6 10年前に50歳を迎えた正社員のうち60歳まで勤続している割合(n=3867)
図5 昨年60歳を迎えた正社員のうち60歳以降も引き続き
雇用された割合(n=3867)
図4 継続雇用時の雇用・就業形態(継続雇用制度のある企業(n=3506))
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六〇代前半の継続雇用者の大
半がフルタイム
六○代前半の継続雇用者の就業状況
や処遇についても調べた。まず、勤務
形態をみると、フルタイム勤務が非常
に多く、七割を超えている(図7)。
ただ、六○歳代前半の継続雇用でも定
年到達前のケースと定年到達後に継続
雇用制度によって雇用されているケー
スとでは、後者のほうが「フルタイム
勤務の四分の三程度」という回答の割
合が増えている。
なぜフルタイム以外の就業時間設定
を行っていないのか理由を尋ねたとこ
ろ(複数回答)、もっとも多い回答が「高
齢者の積極的活用の趣旨からフルタイ
ムが一番ふさわしいと考えるから」で
五割を超えた。他には四割弱の企業が
「業務の遂行が難しくなるから」と回
答している。実際、六○代前半の継続
雇用者の勤務形態という切り口でみる
と、「正社員でフルタイム勤務」、「正社
員以外でフルタイム勤務」と回答した
企業が多い。
六○代前半の継続雇用者の賃金水準
決定に際にもっとも重視している点を
きいたところ、「業界他社の状況」や「担
当する職務の市場賃金・相場」、「六○
歳到達時の賃金水準」で決めている企
業が多いことがわかった。定年到達前
の従業員の場合は、「業界他社の水準」
や「担当する職務の市場賃金・相場」
で決めているところが多いが、定年後、
継続雇用制度により雇用されている従
業員の場合は「六○歳到達時の賃金」
を重視する傾向があるほか、在職老齢
年金や高年齢雇用継続給付の受給状況
も考慮して決められている(図8)。
継続雇用制度のフルタイム従
業員の賃金水準は七五%未満
が多い
もっとも多い六○代前半、フルタイ
ム勤務の継続雇用者について、六○歳
直前の賃金水準を一○○とした場合、
六一歳になったときにどの程度賃金の
変動があったかを最高水準、平均給与
水準、最低水準についてそれぞれ聞い
た。定年到達前の従業員の場合、六一
歳になっても「一○○%」、あるいは「七
五%から一○○%未満」の水準を維持
している企業が比較的多いが、平均的
水準や最低水準では「五○%から七
五%未満」も割と多くみられる(図9)。
これに対し、定年到達後、継続雇用制
度により雇用されている従業員の場合
は、「五○%から七五%未満」がもっと
も多く、最低水準などでは「五○%未
満」と回答した企業も若干ある(図
10
)。
六○代前半のフルタイム継続雇用者
の平均的な年収は四○○万円代前半程
度で、その内訳をみると賃金・賞与が
八割くらい、他には在職老齢年金や高
年齢雇用継続給付がおのおの一割弱と
いうところだ。
六○代前半の継続雇用者の配置につ
いて、勤務場所は、「六○歳ごろと同じ
図7 60代前半の継続雇用者の週所定労働時間(n=3867)
図8 賃金水準決定の際に最も重視している点(n=3867)
図9 60代前半フルタイム継続雇用者の61歳時点の
賃金水準(60歳直前時点=100)
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事業所で、同じ部署」、仕事内容も「通
常、六○歳ごろの仕事内容を継続」と
いう回答した企業がそれぞれ八割前後
を占めている。六○代前半の継続雇用
者を配置する際にどのような点に配慮
しているか聞いたところ(複数回答)、
「慣れている仕事に継続して配置する
こと」(七四・一%)、「本人の希望」(五
三・○%)という回答が多かった。
六○代前半の継続雇用者を対象に研
修を実施しているか聞いたが、九割の
企業は「実施していない」と回答し、「実
施している」ところはわずか二・八%
に過ぎなかった。この二・八%の企業
に対し、研修の内容を聞いたところ、
「技能や知識の陳腐化を防ぐため」と
いう理由がもっとも多かった。
仕事の確保や処遇の決定が課
題に
六○代後半を含めて高齢者雇用の課
題と今後の取り組みについても聞いた。
まず、高齢者雇用の確保のための課題
について聞いたところ(複数回答)、「高
齢社員の担当する仕事を自社内に確保
するのが難しい」(二七・二%)、「管理
職社員の扱いが難しい」(二五・四%)、
「定年後も雇用し続けている従業員の
処遇の決定が難しい」(二○・八%)と
いう回答が多いが、一方で、「特に課題
はない」とする企業も三割ほど見られ
た(図
11
)。
在職老齢年金や高年齢雇用継続給付
といった公的給付の受給者の有無を聞
いた設問では、半数の企業で「いる」
と答えた。こうした公的給付の支給額
が変更された場合の対応について聞い
たところ、特段「賃金は変更しない」
と答えた企業が半数だった。一方で「わ
からない」との回答も三分の一程度も
あり、こういった問題について十分に
検討されていない実情がうかがわれる。
六五歳より先の雇用確保措置
については六割が「未検討」
六五歳より先の雇用確保措置の実
施・検討状況についても聞いた(図
12
)。
図10 60代前半フルタイム継続雇用定年到達前従業員の
61歳時点の賃金水準(60歳直前時点=100)
図12 65歳より先の雇用確保措置が必要だと考える理由(複数回答)
図11 高齢者雇用確保の課題(複数回答)(n=3867)
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「すでに実施している」という企業が
四分の一程度、「実施していないが、検
討している」企業が一割程度だ。六割
の企業は実施も検討もしていない状況
にある。現在、検討中の企業にどうい
うかたちで対応するか聞いたところ
(複数回答)、一番多かった回答が「企
業の実情に応じて働くことができる何
らかの仕組み」(四九・六%)で、次い
で「継続雇用制度の上限年齢の引き上
げ」(二一・○%)だった。すでに実施
している企業や検討している企業を対
象に六五歳より先の雇用確保措置が必
要な理由を聞いたところ、「会社にとっ
て戦力となる高齢者を積極的に活用す
る必要があるから」「高齢者でも十分に
働くことができるから」といった回答
が多かった。逆に言うと有能な高齢者
がいるので、すでに戦力として活用し
ているということが言えるのではない
か。
六五歳より先の雇用確保を実施する
にあたり、今後必
要な取り組みある
いはすでに実施し
ている取り組みを
聞いたところ、「継
続雇用者の処遇改
訂」「新たな勤務シ
フトの導入」が多
かったが、すでに
実施している企業
には「必要な取り
組みはない」と答
えた企業が三一・
八%あった(図
13
)。
六五歳より先の
雇用確保措置を検
討していない企業
にその理由を尋ね
たところ、「六五歳
までの対応で精一
杯であり、六五歳
より先の雇用は差
し迫った課題でな
いと考えるから」
という回答がもっ
とも多く四八・
五%だった。他に
は「個々の従業員の体力や能力に差が
あり一律雇用・処遇するのは難しいか
ら」(三八・九%)、「六五歳以降の労働
者は健康・体力面での不安が増すか
ら」(三○・五%)といった回答も目立っ
た。
最後にこのアンケート調査結果の分
析結果をいくつかご紹介させていただ
きたい。定年年齢や継続雇用の上限年
齢を延長している企業は、年功的処遇
を弱める方向で賃金制度の改定に取り
組んでいる企業が多い。ただ、高齢者
の生活面やモラール面を考慮せずに、
賃金カーブを下げすぎるとマイナスの
影響が出てくる可能性があるので、制
度設計は注意深く行う必要があるだろ
う。
六○歳到達前に働き方や生活に関す
るセミナーなどを行っている会社では
六〇歳以上比率が高い。そういう意味
では六○歳以前からの働き方をきちん
と考えている企業はそれなりに効果を
出しているのではないだろうか。
六五歳より先の雇用確保を行ってい
る企業は、定年や継続雇用制度よりも
むしろ、企業の実情に応じて柔軟に対
応しているケースが多いということが
うかがわれた。
〔注〕
1.回答企業には五○人未満の企業も含まれてい
る。その理由として調査会社で企業情報データ
ベースが対象企業を選定後、該当企業で従業員
数の減少等が生じたことが考えられる。
図13 65歳より先の雇用確保措置を実施する場合に必要になると思われる取組み、
あるいはすでに実施している取組み
日経テレコン21で
『Business Labor Trend』の記事検索が可能になりました
・8月6日からオンライン記事検索サービス「日経テレコン21」(http://t21.nikkei.co.jp/)で
『Business Labor Trend』に掲載された記事の見出し、本文を検索、閲覧することができるようになりました。
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